東京高等裁判所 平成2年(行ケ)273号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(本件審決の理由の要点)は当事者間に争いがない。
また、請求の原因二(本件審決の理由の要点)2のとおり、引用意匠の構成が本判決別紙引用意匠に示すとおりで、意匠に係る物品を「レーダーアンテナ」とすることも当事者間に争いがない。
二 認定判断の誤り第1点について
1 別紙本願意匠及び別紙引用意匠によれば、両意匠の基本的構成態様が、それぞれ、正面(及び背面)がやや横長の略六角形状で側面が方形に近い略六角形状に形成された駆動体の上面に薄い台座様のものを介して端面が略台形状で横長棒状のアンテナ体を回転自在に取り付けたものと表現でき、両者の基本的な構成態様は一致していることが認められる。
2(一) 原告は、本願意匠の駆動体の正面の形態は、正しくは、「上辺下辺が水平で、左側に三頂点、右側に三頂点を配し、上下のみが偏移して歪み左右が全く同形状で対称形の六角形」と認定すべきであると主張する。
別紙本願意匠によれば、本願意匠の駆動体の本体の正面及び背面の形態が、詳細にいえば原告主張のとおりに表現できることが認められる。
また、原告は、引用意匠の駆動体の正面の形態は、正しくは、「上辺下辺が水平で、左側に四頂点、右側に三頂点を配し、上下・左右ともに極度に歪んだ異形状で左右非対称形上下非対称形の七角形」と認定すべきであると主張する。
別紙引用意匠によれば、引用意匠の駆動体の本体の正面の形態が、詳細にいえば、「上辺下辺が水平で、左側に四頂点、右側に三頂点を配し、上下が変異して歪み左右が同形状でない左右非対称形上下非対称形の七角形」と表現できる(背面は左右が逆になる)ことが認められる。
しかし、本件審決は、本願意匠及び引用意匠の態様を本件審決添付別紙第一及び別紙第二に認定した上で、本願意匠と引用意匠とを対比するために、看者が観察した際に、両意匠のそれぞれが看者に与える印象の大枠を形成する両意匠のそれぞれの骨格ともいうべき基本的構成態様を認定しているのであるから、本願意匠について、駆動体の正面の態様を「やや横長の略六角形状」と認定することはもとより、引用意匠についても駆動体正面の態様を同様に認定することに誤りはない。
なるほど、詳細に見れば、引用意匠の駆動体本体の正面の態様は、左側に四頂点、右側に三頂点の七角形であるが、底辺の左端の頂点からその左隣の頂点までの辺と底辺の延長とが形成する角度が小さく、看者に与える印象からすれば底辺の延長とも見えることを考慮すれば、これを「やや横長の略六角形状」とも認定して差し支えない。
(二) また、原告は、レーダーアンテナでは、使用時や販売展示時における各部の姿勢が、各意匠の正面図、側面図及び斜視図に示す姿勢のみに限定されているから、この姿勢において各部の形態が上下・左右に対しどのような関係を持つ形態であるかが明確に把握できる認定でなければならない旨主張する。
しかし、本件審決は、本願意匠及び引用意匠の態様を本件審決添付別紙第一及び別紙第二に認定した上で、本願意匠と引用意匠とを対比するために、看者が観察した際に、両意匠のそれぞれが看者に与える印象の大枠を形成する両意匠のそれぞれの骨格ともいうべき基本的構成態様を認定していることは前記のとおりであり、引用意匠について「略六角形状」とも認定できるのと同じ理由で、引用意匠も左側に三頂点を配するものと認定できるのであり、「上辺下辺が水平で、左側に三頂点、右側に三頂点を配する」点は、本件審決添付別紙第一及び別紙第二に認定した両意匠の態様から明らかであり、かつ両意匠の間に共通であるから、そのように明らかには認定していないけれども、本件審決が、両意匠をそのような態様の「略六角形状」と認定することを前提としていることは明らかである。原告の主張は採用できない。
(三) 更に、原告は、単に「やや横長の略六角形状」とのみ表現したのでは、引用意匠より前の刊行物等のレーダーアンテナにおいて数多く見られる種々に変形した「やや横長の略六角形状」をもつ駆動体の正面形状をも総て包含した認定になつてしまい、大まか過ぎて実体の確認を誤らせるおそれがある旨、また、両意匠の非対称形と対称形との差異をなおざりにして判断している旨主張する。
しかし、別紙本願意匠と別紙引用意匠によれば、本願意匠と引用意匠との対比に関する限り、基本的構成態様としての駆動体の正面の形態としては、両意匠について「やや横長の略六角形状」との認定が大まか過ぎて実体の確認を誤らせるものとは認められず、「上下のみが偏移して歪み左右が全く同形状で対称形」か「上下が偏移して歪み左右が同形状でない左右非対称形上下非対称形」かは、細部の具体的形態にあたるものと認められる。
本願意匠と引用意匠との対比において、引用意匠の左右非対称の程度は基本的構成態様として取り上げる程に顕著なものとは認められない。
(四) 原告は、引用意匠に示された駆動体の正面の形態において、底辺に続く左右の斜辺における外側端の頂点の位置は、底辺からの高さが、左右いずれも同一で、しかも、左側の斜辺は、右側の斜辺の一・五倍以上の長さをもつて、明確に頂点を形づけているのであり、この頂点を無視して底辺の延長線とみることはできない旨、本件審決は、垂直方向に対する傾斜が約一〇度しかない右側上方の辺を斜辺と認定しているのであるから、底辺と左側の斜辺の約一八度の角度を無視することなく、底辺の左側の斜辺を斜辺と認定し、引用意匠の駆動体正面の左側は明確に四頂点がある形態として認定すべきである旨主張する。
しかし、引用意匠の駆動体本体の正面の態様を、「やや横長の略六角形状」とも認定して差し支えないことは前記(一)のとおりであり、右主張は採用できない。
(五) したがつて、両意匠の基本的構成態様としての駆動体の正面の形態がいずれも「やや横長の略六角形状」であることを前提に、両意匠の基本的構成態様の一致点として、駆動体の正面の形態が、「やや横長の略六角形状」である点を認定した本件審決に原告主張の誤りはない。
3(一) 原告は、本願意匠のアンテナ体の端面の形態は、正しくは、「前辺を円弧にし上辺下辺を傾斜させた横向きの台形と小さい横長矩形とを連続させた前後非対称形で上下対称形の台形矩形の連続形」と認定すべきであると主張する。
別紙本願意匠によれば、本願意匠のアンテナ体の端面の形態が、微細にまで及んでいえば原告主張のとおりに表現できることが認められる。
また、原告は、引用意匠のアンテナ体の端面の形態は、正しくは、「やや横長の矩形の上辺を傾斜させた前後非対称形で上下非対称形の台形」と認定すべきであると主張する。
別紙引用意匠によれば、引用意匠のアンテナ体の端面の形態が、微細にまで及んでいえば原告主張のとおりに表現できることが認められる。
しかし、本件審決は、本願意匠及び引用意匠の態様を本件審決添付別紙第一及び別紙第二に認定した上で、本願意匠と引用意匠とを対比するために、看者が観察した際に、両意匠のそれぞれが看者に与える印象の大枠を形成する両意匠のそれぞれの骨格ともいうべき基本的構成態様を認定していることは前記2(一)のとおりであり、両意匠のアンテナ体の端面の態様を微細な点にまで及べば前記のように表現できることを考慮しても、両意匠ともにアンテナ体の端面の基本的構成態様は「略台形状」と認められるから、本件審決が両意匠について、アンテナ体の端面の基本的構成態様を「略台形状」と認定したことに誤りはない。
(二) 原告は、両意匠の意匠に係る物品であるレーダーアンテナの使用姿勢が限定されることを考慮すれば、両意匠のアンテナ体の端面の形態を、単に「略台形状」とのみ認定したことは誤りであり、少なくとも左右上下に対する辺と頂点の関係を明確にして、前記のように正しく認定すべきであると主張する。
しかし、本件審決は、本願意匠及び引用意匠の態様を本件審決添付別紙第一及び別紙第二に認定した上で、本願意匠と引用意匠とを対比するために、看者が観察した際に、両意匠のそれぞれが看者に与える印象の大枠を形成する両意匠のそれぞれの骨格ともいうべき基本的構成態様を認定していることは前記のとおりであり、アンテナ体の端面が横向きの台形、つまり台形の平行な上底及び下底がアンテナ体の前面と後面をなす位置関係にある点は、本件審決添付別紙第一及び別紙第二に認定した両意匠の態様から明らかでありかつ両意匠の間に共通であるから、そのように明らかには認定していないけれども、本件審決が、両意匠をそのような態様の「略台形状」と認定することを前提としていることは明らかである。原告の主張は採用できない。
(三) また、原告は、本件審決は、アンテナ体の端面の形態についても、非対称形と対称形との差異を無視して美感を判断しようとするもので明らかに誤りである旨主張するが、両意匠のアンテナ体の端面の形態の基本的態様が「略台形状」と認められることは前記のとおりであり、両意匠の対比に関する限り、アンテナ体の端面の形態が対称形か非対称形かは微細な相違点に過ぎないものと認められるから、原告の主張は採用できない。
(四) したがつて、両意匠の基本的構成態様としてのアンテナ体の端面の形態がいずれも「略台形状」であることを前提に、両意匠の基本的構成態様の一致点として、アンテナ体の端面の形態が、「略台形状」である点を認定した本件審決に誤りは認められない。
4 原告は、本件審決が、本願意匠の基本的構成態様を認定するにあたり、「駆動体の正面の下方に、三色を横に連ねた水平の帯状模様を施してあること」を無視しているのは誤りである旨主張する。
別紙本願意匠図面によれば、本願意匠の駆動体の正面の下方に、青、赤、緑の三色を横に連ねた水平の帯状模様を施してあることは明らかである。
しかし、別紙引用意匠図面によれば、引用意匠の駆動体の正面の中央部には、三つの部分を横に連ねた水平の帯状模様が表されていることが認められるから、この点についての両意匠の差異は、水平の帯状模様の上下の位置と彩色の有無に過ぎない。
本件審決が、本願意匠及び引用意匠の態様を本件審決添付別紙第一及び別紙第二に認定した上で、本願意匠と引用意匠とを対比するために、看者が観察した際に、両意匠のそれぞれが看者に与える印象の大枠を形成する両意匠のそれぞれの骨格ともいうべき基本的構成態様を認定していることは前記のとおりであり、両意匠の水平の帯状模様の形状、色相、位置の態様を考慮すれば、本件審決が、両意匠の基本的構成態様として前記の帯状模様を取り上げなかつた点に誤りは認められない。原告の主張は採用できない。
三 認定判断の誤り第2点について
1 別紙本願意匠及び別紙引用意匠によれば、両意匠の具体的構成態様が、それぞれ、駆動体につき、正面の左右上方斜辺を長くし左右下方斜辺を短くしたやや横膨らみ状とし、側面の左右上方斜辺を垂直に近い傾斜で長くし左右下方斜辺を垂直に近い傾斜で短くし、平面の両短辺をわずかな弧状に形成した略長方形状としたもので、両側面の両側辺寄りに縦線を現わし、下底の側面視両端寄りに略「L」字状の基台を正面視下辺と略同じ長さにして取り付けて構成している旨、アンテナ体につき、長さと縦幅を駆動体の正面のそれぞれ横幅の約四倍と高さの約1/3とし前面を垂直面状にしてその背部側を先細りの態様に形成している旨、表現することができ、それらの各態様が両意匠に共通しているものであること、両意匠の間には、
(一) 駆動体の正面形状について、本願意匠が左右の上方斜辺の傾斜度をほぼ等しくしたのに対して、引用意匠は片方の上方斜辺の傾斜をやや緩やかにした点、
(二) アンテナ体について、本願意匠がその背部側を上面、下面ともに同じ傾斜面状にして先細りの態様に形成したのに対して、引用意匠は上面を傾斜面状にし下面を水平面状に形成した点、
に差異があることが認められる。
2(一) 原告は、本願意匠の駆動体の正面の具体的態様については、正面の形態を、「上辺下辺が水平で、左側に三頂点、右側に三頂点を配し、上下のみが偏移して歪み左右が全く同形状で対称形の六角形」で「下方に、三色を横に連ねた水平の帯状模様」を施した態様と正しく認定した上で、「正面を、下方に水平三色の帯状模様を施し、水平上辺と水平下辺とが等しく、左右の三頂点のうち二頂点が左右同一に下方約1/3以下に集中して上の二頂点を結ぶ辺が左上斜辺と右上斜辺とが同一に約一二度の傾斜をもつて外方に突き出して同一に膨らみ、上下のみが偏移して歪み左右が全く同形状で対称形の六角形」と具体的に明確に認定すべきであると主張する。
別紙本願意匠によれば、本願意匠の駆動体の本体の正面及び背面の形態が、微細にみれば原告主張のとおりに表現できることが認められる。
しかし、本件審決は、全体としての本願意匠と引用意匠とが、看者に与える美感が類似するかしないかを判断するために両意匠を対比しているのであり、この目的に照らして必要な範囲で両意匠の形態を認定すれば足りるので、駆動体の正面の形態についてだけこの目的に必要ではないいたずらに微細な点を枝葉末節まで認定していないことをもつて誤りとすることはできない。
本件審決が、本願意匠の駆動体の正面の形状について、「上辺下辺が水平で、左側に三頂点、右側に三頂点を配する」態様の略六角形として認定しているものと解されることは、前記二2(二)に認定したとおりであり、同様の理由で「水平上辺と水平下辺とが等しい」点も、そのような態様の略六角形として本件審決が認定しているものと解することができる。
また、原告が主張する、「下方に、三色を横に連ねた水平の帯状模様」を施した態様、「下方に水平三色の帯状模様を施し」た態様については、前記二4に認定のとおり、引用意匠の駆動体の正面の中央部には、三つの部分を横に連ねた水平の帯状模様が表されていて、この点についての両意匠の差異は、水平の帯状模様の上下の位置と彩色の有無に過ぎないところ、両意匠の水平の帯状模様の形状、色相、位置の態様を考慮すれば、本件審決が、本願意匠の具体的構成態様として前記の帯状模様を取り上げなかつた点に誤りは認められない。原告の主張は採用できない。
更に、原告が主張する、「上下のみが偏移して歪み左右が全く同形状で対称形の六角形」との点及び「左右の三頂点のうち二頂点が左右同一に下方約1/3以下に集中して上の二頂点を結ぶ辺が左上斜辺と右上斜辺とが同一に約一二度の傾斜をもつて外方に突き出して同一に膨らみ、上下のみが偏移して歪み左右が全く同形状で対称形の六角形」である点は、基本的構成態様の一部として「正面がやや横長の略六角形状」であることを認定した上、具体的構成態様の一致点の一部として、「正面の左右上方斜辺を長くし左右下方斜辺を短くしたやや横膨らみ状とし」と、相違点の一部として「左右の上方斜辺の傾斜度をほぼ等しくした」と各認定した本件審決に、適切に表現されているものと認められる。
(二) また、原告は、引用意匠の駆動体の正面の具体的態様については、正面の形態を、「上辺下辺が水平で、左側に四頂点、右側に三頂点を配し、上下・左右ともに極度に歪んだ異形状で左右非対称形上下非対称形の七角形」と正しく認定した上で、「正面を、水平上辺が水平下辺よりもやや長く、左側の四頂点のうち三頂点が下方約1/3以下に集中して上の二頂点を結ぶ左上斜辺が約二五度の傾斜をもつて極度に外方に突き出して膨らみ、右側の三頂点のうち二頂点は下方約1/4以下に集中して上の二頂点を結ぶ右上斜辺が約一〇度の傾斜をもつて外方に突き出して膨らみ、左上斜辺と右上斜辺の傾斜度の比が約二・五対一の大差をもつとともに、左側最下の頂点から左側膨らみの先端までの距離と右側最下の頂点から右側膨らみの先端までの距離との比が約三対一の大差をもつ、上下・左右ともに極度に異形状に歪んだ左右非対称形上下非対称形の七角形」と具体的に明確に認定すべきであると主張する。
そして、別紙引用意匠によれば、引用意匠の駆動体の本体の正面の形態が、微細にみれば、「極度に」、「大差」及び「極度に異形状に歪んだ」とある点を除き、原告主張のとおりにも表現できる(背面は左右逆になる)ことが認められる。
しかし、本件審決は、全体としての本願意匠と引用意匠とが、看者に与える美感が類似するかしないかを判断するために両意匠を対比しているのであり、この目的に照らして必要な範囲で両意匠の形態を認定すれば足りるので、駆動体の正面の形態についてだけこの目的に必要ではないいたずらに微細な点を枝葉末節まで認定していないことをもつて誤りとすることはできない。
別紙引用意匠を検討しても、引用意匠の駆動体の本体の正面の形態について、左上斜辺が「極度に」外方に突き出して膨らんでいるものとも、左上斜辺の約二五度と右上斜辺の約一〇度の傾斜に「大差」があるとも、左側最下の頂点から左側膨らみの先端までの距離と右側最下の頂点から右側膨らみの先端までの距離との比に「大差」があるとも、上下・左右ともに極度に異形状に歪んだ形態であるとも認められない。
引用意匠の駆動体の正面の基本的構成態様を、「やや横長の略六角形状」、「左側に三頂点右側に三頂点を配する」とも認定することができること及び本件審決が、引用意匠の駆動体の正面の形状について、「上辺下辺が水平で、左側に三頂点、右側に三頂点を配する」態様の略六角形として認定しているものと解されることは、前記二2(二)に認定したとおりである。
引用意匠の駆動体の正面の形態が、「水平上辺が水平下辺よりもやや長い」ものであることは前記のとおりであるけれども、別紙引用意匠によれば、右の差は、物差しをあてて計つて初めて知ることができる程度の差であつて、看者に与える印象としては、「水平上辺と水平下辺とが等しい」ものとして差し支えないものと認められる。
そうすると、引用意匠の駆動体の正面の形態について、「水平上辺と水平下辺とが等しい」点も、前記二2(二)と同様の理由から、そのような態様の略六角形として本件審決が認定しているものと解することができる。
更に、原告の主張する形態である、「左右非対称形上下非対称形」の点及び「左側の四頂点のうち三頂点が下方約1/3以下に集中して上の二頂点を結ぶ左上斜辺が約二五度の傾斜をもつて外方に突き出して膨らみ、右側の三頂点のうち二頂点は下方約1/4以下に集中して上の二頂点を結ぶ右上斜辺が約一〇度の傾斜をもつて外方に突き出して膨らみ、左上斜辺と右上斜辺の傾斜度の比が約二・五対一の差をもつとともに、左側最下の頂点から左側膨らみの先端までの距離と右側最下の頂点から右側膨らみの先端までの距離との比が約三対一の差をもつ、左右非対称形上下非対称形」の点は、基本的構成態様の一部として「正面がやや横長の略六角形状」であることを認定した上、具体的構成態様の一致点の一部として、「正面の左右上方斜辺を長くし左右下方斜辺を短くしたやや横膨らみ状とし」と、相違点の一部として「片方の上方斜辺の傾斜をやや緩やかにした」と各認定した本件審決に、適切に表現されているものと認められる。
(三) したがつて、両意匠の具体的構成態様としての駆動体の正面の態様の一致点として、正面の左右上方斜辺を長くし左右下方斜辺を短くしたやや横膨らみ状とした点を認定した本件審決に誤りはない。
3(一) 原告は、本願意匠のアンテナ体の具体的態様については、端面の形態を、「前辺を円弧にし上辺下辺を傾斜させた横向きの台形と小さい横長矩形とを連続させた前後非対称形で上下対称形の台形矩形の連続形」と正しく認定した上で、「端面を、前面が縦の円弧状に膨らむとともに上下がつば状突き出し、後面が垂直で、上面と下面を同一に内側に傾斜後水平にして後面側を前面側の約1/3に細くした横向きの台形と小さい横長の矩形との連続による前後非対称形で上下対称形の台形矩形の連続形」と具体的に明確に認定すべきであると主張する。
別紙本願意匠によれば、本願意匠のアンテナ体の端面の形態が、微細にみれば原告主張のとおりに表現できることが認められる。
しかし、本件審決は、全体としての本願意匠と引用意匠とが、看者に与える美感が類似するかしないかを判断するために両意匠を対比しているのであり、この目的に照らして必要な範囲で両意匠の形態を認定すれば足りるので、アンテナ体の端面の形態についてだけこの目的に必要ではないいたずらに微細な点を枝葉末節まで認定していないことをもつて誤りとすることはできない。
本願意匠のアンテナ体の端面の基本的構成態様を、「略台形状」とも認定することができることは、前記二3(一)、(二)に認定したとおりである。
原告の主張する形態である、「前辺を円弧にし上辺下辺を傾斜させた横向きの台形と小さい横長矩形とを連続させた前後非対称形で上下対称形の台形矩形の連続形」及び「端面を、前面が縦の円弧状に膨らむとともに上下がつば状突き出し、後面が垂直で、上面と下面を同一に内側に傾斜後水平にして後面側を前面側の約1/3に細くした横向きの台形と小さい横長の矩形との連続による前後非対称形で上下対称形の台形矩形の連続形」の点は、基本的構成態様の一致点の一部として「端面が略台形状」であることを認定した上、具体的構成態様の一致点の一部として、「前面を垂直面状にしてその背部側を先細りの態様に形成し」と、相違点の一部として、「背部側を上面、下面ともに同じ傾斜面状にして先細りの態様に形成し」と各認定した本件審決に、適切に表現されているものと認められる。
(二) 原告は、引用意匠のアンテナ体の具体的態様については、端面の形態を、「やや横長の矩形の上辺を傾斜させた前後非対称形上下非対称形の台形」と正しく認定した上で、「端面を、前面後面が垂直で、上面のみが傾斜して後面側を前面側の約2/3の高さに低くした前後非対称形上下非対称形の台形」と具体的に明確に認定すべきであると主張する。
別紙引用意匠によれば、引用意匠のアンテナ体の端面の形態が、微細にみれば原告主張のとおりに表現できることが認められる。
しかし、本件審決は、全体としての本願意匠と引用意匠とが、看者に与える美感が類似するかしないかを判断するために両意匠を対比しているのであり、この目的に照らして必要な範囲で両意匠の形態を認定すれば足りるので、アンテナ体の端面の形態についてだけこの目的に必要ではないいたずらに微細な点を枝葉末節まで認定していないことをもつて誤りとすることはできない。
引用意匠のアンテナ体の端面の基本的構成態様を、「略台形状」とも認定することができることは、前記二3(一)、(二)に認定したとおりである。
原告の主張する形態である、「やや横長の矩形の上辺を傾斜させた前後非対称形上下非対称形の台形」及び「端面を、前面後面が垂直で、上面のみが傾斜して後面側を前面側の約2/3の高さに低くした前後非対称形上下非対称形の台形」の点は、基本的構成態様の一致点の一部として「端面が略台形状」であることを認定した上、具体的構成態様の一致点の一部として、「前面を垂直面状にしてその背部側を先細りの態様に形成し」と、相違点の一部として、「背部側の上面を傾斜面状にし下面を水平面状に形成し」と各認定した本件審決に、適切に表現されているものと認められる。
(三) したがつて、両意匠の具体的構成態様としてのアンテナ体の一致点として、前面を垂直面状にして、その背面部を先細りの態様に形成した点を認定した本件審決に誤りはない。
四 認定判断の誤り第3点について
右二、三に判断したところによれば、本件審決には、全体としての本願意匠と引用意匠とが、看者に与える美感が類似するかしないかを判断するために両意匠を対比する目的に照らして必要な範囲では、原告主張の相違点の看過誤認は認められないものというべきである。
五 認定判断の誤り第4点について
1 本件審決の、両意匠の駆動体の正面及びアンテナ体の各基本的構成態様の認定、具体的構成態様の認定、両意匠の相違点の認定に、原告主張のような誤りが認められないことは、右二ないし四のとおりであるから、それらの誤りがあることを前提に、両意匠の差異点についての判断の誤りを主張する原告の主張は理由がない。
2 両意匠のような立体の意匠の類否判断に当たつては、一面のみの対比による差をことさらに強調するのではなく、立体全体の観察によるべきであり、また、両意匠の意匠に係る物品が「レーダーアンテナ」であるので、駆動体の正面やアンテナ体の背面が他の部分と比較して特に見易い部分、注意を引く部分であるということはできない。
このような点を考慮しつつ、本件審決の認定した両意匠の相違点(一)について検討すると、両意匠は、その駆動体の正面形状について下方をやや横膨らみの略六角形状の態様とした共通性が強く、そして前記二、三に認定したとおり、側面及び平面形状の共通性も強いものであるから、両意匠の立体としての全体形状の共通性は強いものといわざるを得ず、駆動体正面形状における両者の上方斜辺の傾斜度の差異はそれらの共通性のうちにおけるわずかな差異にすぎず、両意匠の類否判断に与える影響も微弱な程度で、類否判断の要素として高く評価することができないものと認められ、これと同旨の本件審決の認定判断に誤りはない。
また、本件審決の認定した両意匠の相違点(二)について検討すると、両意匠は、アンテナ体の背部側を先細りの態様に形成した点では共通しており、加えてアンテナ体の端面が略台形状のかなり長い棒状である点で共通性を有することからみれば、相違点(二)はアンテナ体の背部側の下面という限られた部位における水平面状と傾斜面状というわずかな差異にすぎないものということができ、本願意匠のアンテナ体は出願前から公知の態様であることは当事者間に争いがなく、その態様はありふれたものであるから重く評価することはできないから、その差異が両意匠の類否判断に与える影響も微弱な程度で、類否判断の要素として高く評価することができないものと認められ、これと同旨の本件審決の認定判断に誤りはない。
これらの判断については、二及び三に認定した、原告の主張する両意匠の各部分の微細な形態を考慮しても左右されない。
原告は、アンテナ体の部分のみが公知であることによつて、本願意匠の類否判断に与える影響が微弱なものに止どまる旨の判断は誤りである旨主張する。しかし、公知の形態は、その部分に差異があつても、看者に与える印象が弱く、その差異の評価は低くなるのであり、その差異が全体の意匠の類否判断に与える影響も微弱なものに止どまることは当然であり、本件審決の判断に誤りはない。
六 よつて、その主張の点に認定判断を誤つた違法があることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本件請求は理由がないからこれを棄却する。
〔編注1〕本件の特許庁における手続の経緯及び審理の要点は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、意匠に係る物品を「レーダーアンテナ」とする別紙本願意匠記載のとおりの構成態様の意匠(以下「本願意匠」という。につき、昭和五八年五月三一日、昭和五八年意匠登録願第二二九三五号意匠を本意匠とする類似意匠登録出願(昭和五八年意匠登録願第二二九三六号)をしたが、昭和六一年二月二八日に拒絶査定を受けたので、同年五月七日、これに対し審判の請求をした。
特許庁は、右請求を同庁同年審判第九二五一号事件として審理した上、平成二年九月一二日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年一一月一四日、原告に送達された。
二 本件審決の理由の要点
1 本願出願の日及び本願意匠の形態は一項のとおりである。
2 査定手続における拒絶の理由として引用した意匠は、特許庁資料館所蔵(受入昭和五七年三月二四日)の外国カタログ「ELNA3000―FLUSSRADAR ELNANAVSOUND」第6頁所載、レーダーアンテナの意匠(特許庁意匠課公知資料番号第C五七〇六六八九号)であつて、同頁記載の全体から、意匠に係る物品を「レーダーアンテナ」とし、その意匠の形態は、本判決別紙引用意匠に示すとおりである(以下「引用意匠」という。)。
3 そこで、本願意匠と引用意匠について比較検討する。
両意匠の形態について、正面がやや横長の略六角形状で側面が方形に近い略六角形状に形成された駆動体の上面に薄い台座様のものを介して端面が略台形状で横長棒状のアンテナ体を回転自在に取り付けた基本的な構成態様が一致しており、その具体的構成態様についても、駆動体につき、正面の左右上方斜辺を長くし左右下方斜辺を短くしたやや横膨らみ状とし、側面の左右上方斜辺を垂直に近い傾斜で長くし左右下方斜辺を垂直に近い傾斜で短くし、平面の両短辺をわずかな弧状に形成した略長方形状としたもので、両側面の両側辺寄りに縦線を現わし、下底の側面視両端寄りに略「L」字状の基台を正面視下辺と略同じ長さにして取り付けて構成した点、アンテナ体につき、長さと縦幅を駆動体の正面のそれぞれ横幅の約四倍と高さの約1/3とし前面を垂直面状にしてその背部側を先細りの態様に形成した点、の各態様が共通しているものである。
そして、両者間には、
(一) 駆動体の正面形状について、本願意匠が左右の上方斜辺の傾斜度をほぼ等しくしたのに対して、引用意匠は片方の上方斜辺の傾斜をやや緩やかにした点、
(二) アンテナ体について、本願意匠がその背部側を上面、下面ともに同じ傾斜面状にして先細りの態様に形成したのに対して、引用意匠は上面を傾斜面状にし下面を水平面状に形成した点、
に差異が認められる。
4 しかし、
(一) 相違点(一)については、駆動体の正面形状について下方をやや横膨らみの略六角形状の態様とした共通性が強く、そして前記具体的な共通点で記述したとおりの側面、及び平面形状の共通性も強いものであるから、立体としての全体形状の共通性は強いものといわざるを得ず、駆動体正面形状における両者の上方斜辺の傾斜度の差異はそれらの共通性のうちにおけるわずかな差異にすぎないから、両意匠の類否判断に与える影響も微弱なものに止どまり、類否判断の要素として高く評価することができない。
(二) 相違点(二)については、両者とも背部側を先細りの態様に形成した点では共通しており、加えて端面が略台形状のかなり長い棒状である点の共通性からみれば、アンテナ体の背部側の下面という限られた部位における水平面状に対して傾斜面状というわずかな差異にすぎないものということができ、意匠登録第三二七〇〇四号及び意匠登録第三二七〇〇六号の意匠にもみられるように、本願意匠のアンテナ体は出願前から公知の態様でもあつて、その差異が両意匠の類否判断に与える影響も微弱なものに止どまり、類否判断の要素として高く評価することができない。
(三) してみると、差異点はいずれも類否判断の要素として採り上げるまでもないから、前記の一致するとした基本的な構成態様及び共通するとしたその具体的な態様は、看者の注意を強く惹くところであり、両意匠の形態に関する主要部を構成するものであり、かつ全体の基調をなす特徴といわざるを得ないものであつて、類否判断を左右する支配的要素と認めざるを得ない。
したがつて、前記の差異があいまつた効果を考慮したとしても、類否判断を左右する支配的要素において一致し、共通している両意匠は、全体として類似するものというほかはない。
5 以上のとおりであるから、本願意匠は、意匠法第三条第一項第三号に規定する意匠に該当し、意匠登録を受けることができない。
〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。
別紙 本願意匠
<省略>
<省略>
別紙 引用意匠
<省略>